
カムバック採用とは、一度自社を退職した人材を再び雇用する採用手法のことです。
労働人口の減少が進む現代において、即戦力となる人材を確保する有効な手段として新たに注目を集めています。
この記事では、カムバック採用の基本的な知識から導入するメリット・デメリット、混同されやすいアルムナイ採用との違いについて解説します。
また、実際に制度を導入している企業の事例も紹介し、成功させるためのポイントを具体的に掘り下げていきます。
目次
カムバック採用とは一度退職した社員を再雇用する制度
カムバック採用とは、過去に自社で勤務していた退職者を、再び社員として雇用する制度のことを指します。
一般的には、結婚や出産、介護といったライフイベントを理由に退職した人材や、スキルアップなどを目的に他社へ転職した人材が対象です。
企業文化や業務内容への理解がある元社員を再雇用することで、採用コストの削減や即戦力の確保が期待できるため、今多くの企業で導入が進んでいます。
この制度は、多様な働き方を推進する社会的な潮流にも合致した採用手法といえるでしょう。
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カムバック採用が多くの企業で注目される3つの背景
近年多くの企業がカムバック採用に注目していますが、その理由や目的はどこにあるのでしょうか。
なぜ今この採用手法が必要とされているのか、背景には労働市場や働き手、社会全体の価値観の変化が深く関わっています。
具体的には、
①深刻化する人手不足への対策
②転職に対する価値観の多様化
③柔軟な働き方を推進する社会的な潮流
という3つの側面から、その重要性が高まっていると考えられます。
これらの背景を理解することが、制度導入を検討する第一歩となるはずです。
以下で詳しく解説していきます。
深刻化する人手不足を解消する手段になる
少子高齢化に伴う労働力人口の減少により、多くの企業が恒常的な人手不足という課題を抱えています。
特に、専門的なスキルや経験を持つ人材の獲得競争は激化の一途をたどっています。
このような状況下で、カムバック採用は有効な解決策の一つとなり得ます。
元社員ならば自社の事業内容や企業文化をすでに理解しているため、採用後の教育コストを抑えつつ、即戦力として活躍することが期待できます。
新たな人材をゼロから探すよりも効率的に、かつ質の高い人材を確保できる手段として、今多くの企業から注目が集まっています。
転職に対するポジティブな価値観が浸透してきた
かつて主流であった終身雇用制度は変化し、キャリアアップや専門性の向上を目的とした転職は、現在では一般的なキャリア形成の手段として認められています。
退職は必ずしもネガティブな理由ばかりではなく、個人の成長のための前向きな選択と捉えられるようになりました。
このような価値観の変化は、一度退職した企業へ戻ることへのハードルを下げる心理的効果があります。
企業側も同様に、他社で新たな経験やスキルを積んだ元社員を貴重な人材と捉え、再び活躍してもらうことを期待する姿勢へとシフトしています。
多様な働き方を推進する社会的な潮流がある
育児や介護といったライフステージの変化や、ワークライフバランスを重視する価値観の広がりを受け、現代では社会全体が多様な働き方を推進する動きを加速させています。
時間や場所にとらわれない柔軟な勤務形態を導入する企業が増える中、カムバック採用はこういった潮流と親和性の高い制度といえます。
一度は家庭の事情などでフルタイム勤務が難しくなり退職した人材も、時短勤務やリモートワークといった選択肢があれば復職しやすくなります。
企業が多様な人材を受け入れる姿勢を示すことは、企業の魅力向上にもつながるでしょう。
アルムナイ採用とカムバック採用の明確な違い
カムバック採用とアルムナイ採用は、どちらも自社を退職した人材を再雇用する点で共通していますが、その対象範囲や企業と退職者の関係性の深さに違いがあります。
カムバック採用は、原則として過去に自社で勤務していた元社員本人を再雇用の対象とします。具体的には、結婚や出産、育児、介護といったライフイベントや、キャリアアップを目指して一時的に退職した元社員が再び自社で働くことを想定した制度です。
一方、アルムナイ採用は、より広義な「アルムナイ(企業の卒業生、同窓生)」と呼ばれる退職者ネットワーク全体を指します。
このアルムナイネットワークには、元社員本人だけでなく、その元社員からの紹介(リファラル)による人材も含まれる場合があります。つまり、アルムナイ採用は、退職者という人材プールから自社に貢献できる人材を幅広く探すアプローチと言えるのです。
また、退職後の企業との関係性の持ち方にも違いがあります。
カムバック採用では、再雇用を前提として企業側が特定の元社員に対して個別にアプローチし、再雇用に向けた交渉を進めるケースが一般的です。
対してアルムナイ採用では、退職者専用のSNSグループやメーリングリストなどを活用して「アルムナイネットワーク」を構築し、退職後も企業とアルムナイが継続的かつ緩やかな関係を維持します。
このアルムナイネットワークを通じて、企業の近況を共有したり、イベントを企画したりすることで、再雇用だけでなく、ビジネス上の協業や情報交換など、多様な関係性を築くことを目的としている点が大きな特徴です。
このように、アルムナイ採用は単なる再雇用制度に留まらず、退職者コミュニティの形成を重視する制度と言えます。
企業がカムバック採用を導入する5つのメリット
カムバック採用を導入することは、企業にとって多くのメリットをもたらします。
採用活動の効率化やコスト削減はもちろんのこと、組織力の強化や企業イメージの向上にも寄与する可能性があります。
事前に自社の文化や業務内容を理解している人材を迎えることで、採用におけるリスクを低減できる点も大きな利点です。
ここでは、企業がカムバック採用を導入することで得られる下記5つのメリットについて詳しくご紹介していきます。
・即戦力人材の確保で教育コストを削減できる
・採用活動にかかる時間や費用を大幅に抑えられる
・入社後のミスマッチが起こりにくく定着率向上が期待できる
・社外で得た新たな知見が組織の活性化につながる
・柔軟な働き方を認める企業としてイメージが向上する
次章から各メリットについて具体的に解説します。
即戦力人材の確保で教育コストを削減できる
カムバック採用最大のメリットは、即戦力となる人材を確保できる点にあります。
復職者は元社員であるため、自社の企業文化や理念、事業内容、そして具体的な業務フローをすでに理解している場合がほとんど。
そのため、新人研修やオンボーディングといった入社後の教育にかかる時間と費用を大幅に削減できます。
特に、業界特有の専門知識や社内独自のシステム操作などが求められる職種において、その効果は絶大です。
復職者は入社後すぐに業務に取り掛かることができ、早期に組織へ貢献することが期待されます。
採用活動にかかる時間や費用を大幅に抑えられる
一般的な中途採用では、求人広告の掲載費用や人材紹介会社への成功報酬など、多額のコストが発生します。
また、膨大な数の応募書類を確認する書類選考や、複数回にわたる面接など、採用担当者には大きな時間的負担がかかります。
カムバック採用の場合、対象者が元社員に限定されるため、これらの採用プロセスを大幅に簡略化することが可能です。
大々的な募集活動が不要となり、採用コストと担当者の工数を大きく削減できる点は、企業にとって非常に大きなメリットとなり得るでしょう。
入社後のミスマッチが起こりにくく定着率向上が期待できる
中途採用における早期離職の主な原因の一つに、入社前後のギャップ、いわゆるミスマッチが挙げられます。
カムバック採用では、復職者は社風や人間関係、業務の実態をあらかじめ理解した上で入社を決めるため、このようなミスマッチが起こる可能性は極めて低いです。
また、企業側も本人の人柄や能力を把握しているため、適切な部署配置が可能です。
かつての退職理由が解消されてさえいれば、高いエンゲージメントを持って業務に取り組むことが期待でき、結果として社員の定着率向上につながります。
社外で得た新たな知見が組織の活性化につながる
退職後に他社で経験を積んだり、大学院で学び直したり、海外で語学力を習得したりした人材が復職することで、組織に新しい風が吹き込まれます。
彼らが社外で得た新たなスキル、知識、異なる視点は、既存の業務プロセスの改善や、新しい商品・サービスの開発、新規事業の創出といったイノベーションのきっかけになります。
内部人材だけでは生まれにくい発想やノウハウがもたらされることは、組織全体の活性化と競争力強化に大きく貢献することが見込めます。
柔軟な働き方を認める企業としてイメージが向上する
カムバック採用制度を設けていることは、社員一人ひとりのキャリアプランやライフステージの変化に寄り寄り添う、柔軟な姿勢を持つ企業であるという強力なメッセージになります。
このような取り組みは、社外に対してポジティブな企業イメージを発信することにつながり、企業のブランディング効果を高めます。
結果として、優秀な人材にとって魅力的な職場として認知され、新規採用活動においても有利に働く可能性があります。
また、在籍中の社員にとっても、安心して長く働ける企業であるという認識が広まります。
企業が知っておくべきカムバック採用の3つのデメリット
カムバック採用は多くのメリットがある一方で、導入や運用にあたって注意すべきデメリットも存在します。
主に挙げられるのは、下記の3つの課題です。
・既存社員から不公平感や不満の声が上がる可能性がある
・復職者が社内の新しいルールや環境変化に馴染めない場合がある
・公平な制度を運用するためのルール作りが必要になる
特に、復職者と既存社員との間に生じる可能性のある摩擦や、制度運用の公平性の確保は重要な争点といえます。
これらのデメリットを事前に把握し、適切な対策を講じなければ、かえって組織の混乱を招くことにもなりかねません。
次章から、企業がカムバック採用を検討する上で知っておくべきデメリットについて具体的に解説していきます。
既存社員から不公平感や不満の声が上がる可能性がある
復職者が退職前と同等、あるいはそれ以上の役職や給与で迎え入れられた場合、その間も会社に貢献し続けてきた既存社員から不公平感や不満の声が上がる可能性があります。
「なぜ一度会社を辞めた人が優遇されるのか」という感情は、チームの和を乱し、社員のモチベーション低下を招く要因となりかねません。
特に、同じ部署で働く同年代や同僚との処遇のバランスには細心の注意を払い、復職の経緯や期待する役割について、周囲の社員に丁寧に説明しておくことが求められます。
復職者が社内の新しいルールや環境変化に馴染めない場合がある
社員が退職している間に、企業の組織体制や業務フロー、使用しているITシステム、あるいは人間関係は変化していることが少なくありません。
復職者が過去の経験や知識に固執し、「自分のいた頃はこうだった」という意識が強い場合、新しいルールや環境の変化に順応できず、パフォーマンスを発揮できない懸念があります。
企業側は、ブランク期間中の変更点を事前にしっかりと情報共有するとともに、復職者が新しい環境にスムーズに溶け込めるよう、オンボーディングなどのサポート体制を整える配慮が必要です。
公平な制度を運用するためのルール作りが必要になる
カムバック採用を場当たり的に運用すると、「上司に気に入られていた人だけが戻れる」といった不公平感を生む原因になります。
こうした事態を避けるためには、制度として明確なルールを設けることが不可欠です。
例えば、再雇用の対象となる退職理由(自己都合、育児、介護など)や、退職前の勤続年数、復帰後の給与や役職の決定基準などを具体的に定め、就業規則に明記するなどの対応が求められます。
誰にでも適用されうる透明性と公平性のある制度設計が、社員と復職者、双方の信頼を得る上で非常に重要なポイントです。
カムバック採用を成功に導くための4つのポイント
カムバック採用制度をただ導入するだけでは、必ずしも成功するとは限りません。
この制度を有効に機能させ、企業と復職者の双方にとって有益なものにするためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
退職者との継続的な関係構築から、復職時の条件設定、そして受け入れ体制の整備まで、一連のプロセスを丁寧に進めることが求められます。
対象となる退職後の期間や何年以内か、年齢制限なども含め、制度設計の段階から運用までを視野に入れた取り組みが成功の鍵を握ります。
退職時も良好な関係を保ち、定期的に接点を持つ
カムバック採用の第一歩は、社員が退職する際に円満な関係を維持することから始まります。
退職理由を真摯にヒアリングし、将来的に復職の可能性があることを伝えておくことが大切です。
退職後も、会社の近況を伝えるメールを送ったり、OB・OGが参加できるイベントの案内をしたりするなど、定期的に連絡を取り、関係性を途切れさせない工夫が重要です。
こうした継続的な接点が、いざ人材が必要になった際にスムーズな声かけを可能にし、復職への心理的なハードルを下げることにつながります。
復職後の待遇や役割について事前に明確な条件を提示する
復職を打診する際には、給与や役職、勤務形態といった待遇面や期待する役割、担当してもらう業務内容について、具体的かつ明確な条件を提示することが不可欠です。
特に、退職後に他社で培った経験やスキルをどのように評価し、処遇に反映させるのかを丁寧にすり合わせる必要があります。
このプロセスを曖昧にすると、入社後のミスマッチやトラブルの原因となりかねません。
お互いに納得できる形で条件を合意することが、復職後の活躍と長期的な定着に向けた重要な基盤となります。
既存社員へ制度の目的や経緯を丁寧に説明し理解を得る
復職者が配属される部署の社員に対しては、事前に十分な説明を行い、理解と協力を得ることが極めて重要です。
なぜその人物を再雇用するのかという制度の目的、会社としてどのような活躍を期待しているのかという経緯を丁寧に伝えることで、既存社員が抱きがちな不公平感を和らげることができます。
周囲が歓迎する雰囲気を作ることは、復職者がスムーズに職場に馴染むために不可欠であり、チーム全体のパフォーマンスを維持、向上させるためにも欠かせないプロセスです。
復職者がスムーズに職場に溶け込めるようサポート体制を整える
たとえ元社員であったとしても、数年のブランクがあれば、変化した社内ルールや新しい人間関係に戸惑うことも当然あります。
そのため、企業側は復職者が安心して業務に集中できるようなサポート体制を整えるべきです。
例えば、業務内容や社内での立ち回りについて気軽に相談できるメンターをつけたり、人事部が定期的に面談の機会を設けたりするなどの取り組みが有効です。
こうしたフォローアップは復職者の不安を解消し、早期に能力を発揮してもらうための後押しとなるでしょう。
【パターン別】カムバック採用の導入事例
カムバック採用は、大手企業を中心に多くの組織で導入が進んでおり、その活用方法は業種や目的によって様々です。
メーカーのキャノン、NEC、ニトリ、ファンケル、富士通、日本製鉄、金融の三井住友銀行、東京海上日動、インフラの関西電力といった大手民間企業だけでなく、東京や大阪などの自治体でも、教員の再任用などで活用されています。
また、近年では不動産業界でも経験者を呼び戻す動きが見られます。
ここでは、具体的な導入事例を3つのパターンに分類して紹介します。
専門知識を持つベテラン人材を再雇用したメーカーの事例
多くのメーカーでは、長年の経験を通じて培われた高度な専門知識や技術を持つベテラン人材の流出が課題となっています。
そこで、定年や早期退職で一度職場を離れた技術者を、専門職やアドバイザーとして再雇用する事例が増えてきています。
例えば、特定のプロジェクトでその知見を活かしてもらったり、若手技術者への技術伝承を担ってもらったりする形です。
これにより、企業は競争力の源泉である貴重なノウハウを組織内に留め、次世代の人材育成を促進することが可能になります。
ライフステージの変化で退職した社員が復帰した小売業の事例
小売業やサービス業では、結婚や出産、育児、介護といったライフステージの変化を理由に、優秀な女性社員が離職してしまうケースが少なくありませんでした。
これに対し、一度退職した社員が、子育てが一段落したタイミングなどで復職できる制度を導入する企業が増えています。
時短勤務や勤務地限定といった柔軟な働き方を選択できるようにすることで、経験豊富な人材がキャリアを継続できるよう支援しています。
これは、多様な人材が活躍できる職場環境の実現と、深刻な人手不足への対策を両立させる有効な取り組みといえます。
他社でスキルアップした人材を呼び戻したIT企業の事例
技術革新のスピードが速いIT業界では、常に最新のスキルや知見が求められます。
そこで、一度自社を離れ、スタートアップ企業や競合他社で新たな経験を積んでスキルアップした人材を、より重要なポジションで迎え入れる事例が見られます。
彼らが外部で得た新しい視点やマネジメント経験は組織に刺激を与え、事業の成長を加速させる原動力となり得ます。
企業は、退職をキャリアの中断ではなく、成長の機会と捉え、外で力をつけた人材が再び貢献できる道筋を用意しています。
まとめ
カムバック採用は、一度退職した人材を再雇用する制度であり、深刻化する人手不足への対策として有効な手段です。
企業にとっては、採用コストの削減や即戦力の確保、組織の活性化といった多くのメリットがあります。
一方で、既存社員の不公平感や制度運用の難しさといったデメリットも存在するため、導入には慎重な検討が必要です。
成功のためには、退職者と良好な関係を維持し、復職時の条件を明確に定め、既存社員の理解を得るといったポイントを押さえた運用が求められます。
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